ものづくり
No. 4
IMG_0325
北風が生み出す甘み

島の風物詩
角永さん一家冷たい木枯らしが島を吹き抜けるようになった頃、「今年もかんころの季節がやってきたなぁ」と思います。「かんころ」とはさつまいもの切干しのこと。小値賀島のかんころは、茹でた切干、「茹で干しかんころ」のことを指します。この時季、島のあちこちに竹で組んだ「かんころ棚」とよばれる干し棚を目にするようになります。棚には茹でられたさつまいもの切干が、まるで黄色い落ち葉がしきつめられたように並べられています。だからでしょうか。かんころ餅の生産者である角永さんは、この茹でられて黄色く色づいたさつまいもを「かんころの葉」と呼んでいます。島では、お正月を控えた12月下旬、それぞれのお家でつくられたかんころを餅と一緒について「かんころ餅」をつくり、島の外にいる子どもたちや親せきに送る光景が風物詩です。

かんころの葉
角永さんのお家も、子どもの頃からずっとかんころ餅をつくり続けています。お父さんの富義さんは青年時代を振り返って、「昔は機械なんてなかったもんやけん4、5人で交代しながらつきよったよ。そいを20軒とか30軒分やりよったから大変だったとよ」としみじみ。今は、3年前に構えた小さな工場で、島へ帰ってきた息子の知志さんと親子3人でかんころ餅を製造しています。
太陽と風
秀子さんかんころ餅に使用する材料は、さつまいも・もち米・生姜・ごま・砂糖。角永さんのお家では砂糖以外は全て自家製です。富義さんが言うには「なんもかんも小値賀で育てたもんが一番うまかったい」。島の外に暮らすお友達が「やっぱり小値賀のかんころ餅がうまかー!」とわざわざ買ってくれるほど自慢のかんころ餅です。
かんころを茹でて干すのはお母さん、秀子さんの仕事。大きな窯でかんころを茹で上げ、潮風がビュービュー吹き抜ける海辺で干します。太陽と風がそろわないと色が悪くなってしまうので、秀子さんはいつも天気とにらめっこ。干して“ギュッと”甘みが凝縮されたかんころは、冷蔵庫で1年寝かされてからかんころ餅に使われます。1年寝かせることでさらに甘みが増し、もち米と練り合わせたときにほどよい粘りがでるそうです。寝かせたかんころは、木の桶に入れてその上から熱湯をかけてやわらかくした後、お湯をきって蒸気を飛ばします。そして、さらに1時間、木のせいろでじっくりと蒸します。木にこだわるのは、木自身がうまく蒸気をとばしてくれるからです。蒸されたかんころは石臼で2度練られて、ようやくかんころ餅のタネが出来上がります。

餅のタネ

さつまいもの立役者
小値賀のかんころ餅の特徴は生姜が入っていること。でも、各家庭によってお家の味があります。角永さんのかんころ餅は、富義さんのお母さん「ヨシばあちゃん」の味を、秀子さんが引き継いでいます。「生姜が入ると日持ちせんかったい。そいでも、入ってないとやっぱり美味しくなかったいね。入り過ぎると辛いし、あくまでもさつまいもを主役にせんばね」。練りたてのお餅をホカホカのうちにいただくと、口の中でとろーりとお餅が溶けて、さつまいもの優しい甘みが生姜と一緒にふんわり広がります。七輪の上で焼けば、ごまの香ばしさが引き立ってこちらも美味。
餅のタネを知志さんが丸めて、秀子さんが形を整える様子はまるでパンづくりのよう。「かんころ餅の次はパン工房でも開けるんじゃないかねぇ」なんて秀子さんが笑いながら作業は続きます。木枯らしが吹きすさぶ中、心温まるかんころ餅づくりを見せていただきました。